SF作家と探偵作家の、運命のコラボレーション
「少年探偵長」（海野十三･横溝正史）
（「横溝正史少年小説
コレクション⑦南海囚人塔」）柏書房
山中で助け起こした老人は、
春木少年に自らの義眼を手渡す。
その直後に現れた
怪ヘリコプターは、
その老人を連れ去った上に、
機銃掃射まで行った。
春木少年が
渡された義眼を調べると、
中から出てきたのは
金貨の欠片だった…。
柏書房刊
｢横溝正史少年小説コレクション｣
最終巻に収録されている本作品は、
海野十三の執筆したものなのですが、
海野急逝にあたって、
後半部は横溝が代筆したという
驚きの作品です。
こうした貴重な一篇が
読めるようになったのも、
柏書房の大きな功績です。
【主要登場人物】
春木清
…中学校二年生。
謎の金貨を受け渡される。
牛丸平太郎
…清の同級生。
謎の一味から誘拐される。
小玉･横光･田畑
…清･平太とともに
少年探偵団を結成する。
戸倉八十丸
…清に金貨を渡した老人。
チャンフー
…謎の骨董店店主。
チャンウー
…チャンフーの双子の兄弟。
四馬剣尺
…悪の一味の頭目。
波立二･木戸･机博士･仙波甲二郎
…悪党の仲間。
立花カツミ
…近くのスミレ学園の女教師。
姉川五郎
…偶然、清が隠した
金貨を見つける浮浪者。
秋吉警部
…事件を担当する警部。
本作品の味わいどころ①
SF作家･海野らしいスケールの大きさ
いきなりヘリコプター登場です。
昭和23年から雑誌連載された本作品、
読者の少年たちは
さぞかし興奮したことでしょう。
悪党一味がヘリコプターで来襲し、
いきなり機銃掃射まで
かませるのですから。
姿を隠しながら暗躍する怪盗ではなく、
正面切って実力行使に出る悪党集団。
そして悪党の狙いは海賊の隠し財産。
SF作家らしいスケールの大きさです。
本作品の味わいどころ②
少年たちを魅了する設定の数々
二つに割られた謎の金貨、
添えられた暗号文、
正体不明の首領、
山中にある敵のアジト、
謎の第三勢力･猫女、
アジトからの脱出劇、
謎の中国人骨董品店主、
少年探偵団結成、
子どもたちの喜ぶものを
総動員した面白さです。
後半部分にも見られることから、
横溝正史の代筆が
味わい深さを増しています。
本作品の味わいどころ③
冒険する二少年
平太少年は悪党集団に白昼誘拐され、
アジトに囚われの身となるのですが、
ちっともくじけません。
清少年は単身アジトに潜入し、
平太少年を救出します。
この少年たちの冒険こそが
ジュヴナイルの醍醐味です。
読んでみると、
どこからが横溝代筆部なのか
見わけがつきません。
横溝が海野の文体を模して
違和感のないように書き上げた
結果なのです。
しかも海野の構築した物語のスケールを
損なうことなく、
さらに自身の探偵小説の題材を投入して
展開に深みを与えているのです。
SF作家･海野と探偵作家･横溝の、
運命のコラボレーション
だったのでしょう。
横溝の命日にあたる
12月28日に刊行された
｢横溝正史少年小説コレクション｣
最終巻。
横溝追悼にこれだけふさわしい一冊が、
他にあるでしょうか。
もう一度記します。
こうした貴重な作品が
読めるようになったのは、
柏書房の大きな功績です。
柏書房さん、
ありがとうございました。
※疵がないわけではありません。
立花カツミ先生が、
前半部では近所のスミレ学園の
職員だったはずなのに、
後半部では清少年の中学校の
教員として働いています。
また、前半部での猫女による
アジト襲撃の意図が
全く意味不明となっています。
執筆者の急遽交代による瑕疵は
あるものの、
作品の価値から考えると
小さなものといえるでしょう。
（2022.1.28）
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